チビ

この犬は晩年、一日一食の餌(食事)を夕刻、母からもらい食べ終わると庭で寝ていた。

 暫くすると、母が出てきて「チビ(犬の名前)散歩に行こう」と言って、首輪の鎖の金具をカチンと外し、散歩用の引き絆も付けず、母は家を出て行く。チビは、大急ぎで母の後を追い田んぼの中の道を前へ行ったり後へ行ったりしながらついて行く。あっちこっちで犬のマーキングに余念がない。

 10分も田んぼ道を歩くと母は、やや遠くで遊んでいるチビ(犬)に「帰るよ」と言って、踵を回らせる。

 チビは急いで、母を追いかけ前へ回って、ガードマンのように辺りを警戒しながら歩く。

 家の前へ来ると、母の後ろに回って母が門扉に入り「おいで」と言うと、庭の中に入る。

 母は、門扉の掛け金をかけるころには、チビは自分の定位置で待っていて、母が首輪に金具に太い鎖をカチンと懸けると激しく尾を振る。

 母は、チビが食べ終わった食器を持って、家に入るとすぐに、綺麗に洗った食器に水を満たして出てくる。チビはその水をペチャペチャと満足そうに飲んで土の上にごろりと横になる。

 母は、チビの頭をなでて、「私は、犬は嫌いだけれどお前だけは好きだよ。お休み。」と言って去っていく。玄関のドアーがバタンと閉まり、カチリと言う鍵のかかる音を聞いて、チビは安心して眠るのであった。

 そんな生活は二年足らずで終わり、手を振りながら行ってしまったのが、チビある。