あわや危険猛犬処分

 そんな日が長く続いたある日、小学校六年生の礼子さんの友人スミレさんがやってきました。

 スミレさんは、太郎を見ると「犬がいるの、学校ではちっとも言わなかったじゃない」と言って太郎に近づいてきました。

 久しぶりに誰かが近づいて来てくれたので太郎は、大喜びで立ち上がってブルブルと激しく尻尾振りました。スミレさんはそれを見て喜んで、太郎のそばに来ました。太郎も嬉しくなって立ち上がったままスミレさんにまつわりつこうとしました。

 その時随分伸びていた太郎の前足の爪がスミレさんの左手をひっかいてしまいました。スミレさんはかまれたのかと思って驚いて泣き出しました。礼子さんはスミレさんを後ろに庇うようにして太郎の前に来るとそばにあった竹箒で「この馬鹿犬」と言いながら太郎をたたきました。太郎は何が何だか解らず、ジットしていました。

 スミレさんは礼子さんに包帯を巻いて貰って、泣きながら帰ってしまいました。

 その夜、スミレさんの両親が訪ねてきました。「こちらは、街の治安を守る、警察署長さんのお宅でしょう、そこに危険な狂犬を飼っているなんて事は理解できません速やかに処分して下さい。」えらい剣幕で、とまくし立てました。後ろで手に包帯を巻いたスミレさんが小さくなっています。

 丁度帰ってきた署長さんは、「では至急、障害の届けを出して下さい。お嬢さんの傷を担当医が厳密に検査して対処させていただきます。本当に犬がかんだのであれば当然処分しなければならないでしょう。お怪我をされたお嬢さんには誠に申し訳ないと思います。明日にでも、被害届をお出し下さい。」といって署長さんは、これを治療費の足しにして下さいと言って、スミレさんの両親の前に封筒を出した。