大事件発生

 ある日、受験勉強に疲れた、ター坊が居間のテレビをつけました。すると、緊急ニュースと言う字幕が踊って、「今日、午後3時強盗に入った男が警察に追われ、びっくり神社に逃げ込んだ。」と言うのです。その男は近くで遊んでいた小学5年生の女の子を人質にして、神社の拝殿に立てこもり、逃走用の車と多額の身代金を要求しているというのです。

 警察は、所長以下総動員で犯人の立てこもる、びっくり神社を取り囲んでいるが、人質の安全を考えると手が出せずに時間が経過している。と言うのでした。

 ター坊は庭へ出て、太郎に「久しぶりに散歩に行こう。びっくり神社で何か大変なことが起ったらしい。」といって。太郎を連れてびっくり神社へ行きました。

 神殿の回りには大勢の警官が並び、その回りにはロープが張られています。野次馬達も大勢集まって、閑静な神社が緊張感に包まれています。

 ター坊のお父さんの警察所長がハンドマイクをとって「子供を解放して、刃物を捨てて出てきなさ。そうすれば君の未来がひらけますよ。」というと、拝殿の中から男の声がした、「俺が言ったとおりにしろ、そうしないとこの子を殺して此処に火をつけるぞ。」と怒鳴り返すのです。

 所長の前に心配そうな顔をした両親らしい人が立っています。その二人は太郎を処分しろと強硬に言って来たスミレさんの両親です。

 ター坊が事件の重大さに気を取られ太郎の引き綱を取り落としたとき、太郎はスルスルと警備の警官達の間をすり抜け閉されている拝殿の裏側へ回っていきました。

 そこには、犬や猫が入り込めるくらいの穴があるのです。太郎はそこからスルリと入り込むと、犯人の若者と人質になっているスミレさんを見ました。犯人は、サバイバルナイフのような鋭利な刃物をスミレさんの首に押しつけて、血走った目で回りを見回しています。

 スミレさんはもうぐったりして、今にも倒れそうですが、男がスミレさんの首に太い左腕を回して押さえているので身動きが出来ません。

 また、所長のマイクの声が響きました。すると男は大声を上げて「馬鹿野郎早くしろ」と叫びました。その瞬間、太郎は男の刃物を持った右腕に猛然と噛みつきました。男は驚いて刃物を取り落とし、スミレさんを押さえていた左手で噛みついた犬を追い払おうとしました。

 スミレさんはその空きに、しめられていた拝殿の正面の扉を開けて泣きながら警察官の前に走ってきました。警察官の一人がスミレさんを抱き上げて後方へ運ぶ間に拳銃を抜いて警官隊は拝殿へ駆け込みました。

 男は太郎に右手をしっかりくわえられ、身動きも取れずにいます。警官達が男を捕えて手錠をかけるころには、太郎はいなくなっていました。

 警官の一人が言いました。「これはひどい傷だ。手の骨が砕けたようだな。粉砕骨折というのは聞いたことがあるが、これは粉微塵骨折だ、この男の手は治らないかもしれないぞ。救急車も呼んでくれ。」するともう一人の警官が言いました。「さっきの犬何処へ行ったんだ、警察犬は連れてこなかっただろう。いつの間にか居なくなったな。」と良いながら犯人を抱えて拝殿を出ました。

 すると所長の前にさっきの犬が座って頭をなぜて貰っています。

 救出されたスミレさんが、犬の首に抱きついています。両親は、所長さんに深々と頭を下げています。

 犯人を連れてきた警官達が聞きました。「所長今日は秘密裏に警察犬を出動させたのですか。この犬はなかなか優秀ですが荒っぽいですね。かまれた犯人の手はむちゃくちゃですよ。」

 すると、所長は笑いながら、「この犬はたまたまこの辺りへ散歩に来ていた私の犬だよ。今は誰も散歩に連れ出してやらないので、フラストレーションがたまって大暴れしたんではないかな。」

 すると一人の刑事がやって来て、「この犬は4年前交通事故で亡くなった石塚太郎さん所から、所長が引き取ったあの犬ですか。警察官に飼われている犬は訓練しなくても優秀な警察権になるのですね。」と言って笑いながら去っていきました。

 犯人が逮捕されたので、立ち入り禁止のロープが外され、かたずをのんで様子を見ていた人もかえり、最後まであちこちを取材していた記者達も立ち去ると、びっくり神社はまたもとのように、びっくりするほど静かになりました。