貴一郎が危ない

  太郎は大急ぎで、貴一郎を抱えて動物病院へ行きました。獣医さんは、貴一郎を一目見て「これは大変ですよ。でも出来るだけのことはしましょう」と言って、体に食い込んだ散弾を一つ一つ丁寧に抜き取りました。それはとても長い治療でした。その間貴一郎は少しも動かず、死んだようでした。

 獣医さんは、「まだタマが少し残っていますがこれ以上は危険です」と言って、その日の手術を終わりました。  太郎は明日またお願いしますと言って、貴一郎を動物病院に残して帰りましたが、心配で眠れません。お爺さんとお婆さんと三人も同じ気持ちです。

 翌日、朝早く、みんなで病院へ行きました。悲しいことに貴一郎は、もう冷たくなっていました。獣医さんが言いました。「あれだけの散弾を受けてよく飛べたものです。別々の方向から二人のハンタンに撃たれたようですよ。」と言いました。太郎は、それを聞いて犬が二頭追っかけてきたことを思い出しました。

 みんなは、悲しい気持ちで、貴一郎の亡骸を引き取り帰ってきました。

 太郎は、家の東の隅に深い穴を掘って貴一郎を葬りそこに盛り上げた土の上に一本の楠を植えました。  その木の傍らには「貴一郎記念樹」と書いた一本の杭をたてました。