懐かしいみんなの声
太郎が楠を見上げると、青い空に白い雲が流れていました。
そして雲の中から声が聞こえたような気がして、目をこらしてみると、雲の上にお爺さんとお婆さんが座ってニコニコ笑いながら手を振っていました。お爺さんお婆さんと言えないぐらい若々しくなっているので驚きながら見つめていると、若返った、お婆さんの隣には猿の三津子が座り犬の大二郎と雉の貴一郎もいました。猫の三四郎はお爺さんの膝の上に気持ちよさそうに乗っています。
声が聞こえてきました。「ここは楽しいところですよ。みんな一緒に楽しく過ごしてます。太郎さん達が来たら、また一緒に暮らせますね。」
太郎は言いました。「私も年を取ったからもうすぐみんなの所へ行きますよ。」
すると、大二郎の大きな声が聞こえてきて「そんなに急がなくても良いですよ、俺たちは此処では死ぬことも病気になることもないからいつまでいても心配ないところですよ。そちらでたのしく生きて、たくさん仕事をしてから、ゆっくりこちらへ来て下さい。何時まででも待っていますよ」と言うのです。
雲の上の六人は光り輝いてまぶしいほどです。お爺さんとお婆さんもすっかり若返った様子で、お爺さんお婆さんと言えないでしょう。まるで新婚ホヤホヤの初々しいカップルのようです。
散弾銃に撃たれた雉の貴一郎は傷跡も残っていません。
大二郎は前より大きくなったようで堂々と胸を張って鋳ます。美都子もすっかり若返っています三四郎の毛並みは金色に光り輝いています。
太郎が見上げていると、南から吹いてきた強い風に乗って雲は何処かへ飛んでいきました。
その時、みんなの声が響いてきました。
「お元気で、また会える日をたのしみにしてますよ。でも、急がないでくださいね、私たちはずっと此処にいますから、此処で待っていますからね。そしていつも私たちが皆様を守っていますよ。」という大きな声でした。
太郎は4本の木を順番になでてから、奥さんに「明日は朝早く、お爺さんとお婆さんの墓参りに行こう。」と言いました。
地震の後の火事も収まり、夕暮れの空には雲一つ見えません。明日からまた良い日がやってくることを願いながら、太郎は、みんなに話しかけました。
「みんなの力で助けて貰って有難う。また一緒に暮らそうね。」
=おしまい=