海帝陛下のお召し

 ある日、亀太郎は海帝陛下に呼ばれました。

 海帝陛下の御前に伺候すると、陛下は厳かな顔をして亀太郎に語りかけました。「亀太郎よ、長年の忠勤を心から嬉しく思う。お前は先帝陛下の時代に一度ここへ来て、朕が即位してからも止まり60年を過ごした。その後一度地上へ帰り、再度やって来て既に40年が過ぎる。そこで、一度、地上を見に行く機会を与えたいと思うが、どうじゃな。」

 そう言われて亀太郎は嬉しい反面戸惑いました何しろ目覚ましい営業実績をあげて係長を先頭にふぐ料理屋へ繰り込んでから40年も経っているのですから地上はどうなっているのかサッパリわかりません。会社があるのかどうかさえわかりません。

 亀太郎がポカンとしていると、海帝陛下は、「亀太郎よ,心配はいらぬ、こちらへ帰りたいと思えばいつでも帰ってくることが出来る。今度は宝の小箱を渡さないがお前の心の中に宝の小箱がある。それに念ずればいつでも帰ってくることも地上へ行くことも自由自在に出来るのだ。この権能はお前の長年の忠勤の褒美として与える。」

 そう言われると亀太郎はホッとして、「それでは早速地上を見に行って参ります。」と答えると海帝は「それでは海岸の近くまでは朕が世界巡幸に使っている海底巡航艇で送らせよう」と行って、侍従長を呼んで命令を下しました。

 そして海帝は付け加えて「亀太郎よ、今度こちらへ帰ってくればその後は、いつでもお前の好きなときに此処と地上を行き来することが出来る。それを忘れないように、では元気に行っておいで。」と言って、ニッコリと微笑まれました。

 亀太郎は、この度は亀ではなく大型のまばゆいばかりの海底巡航艇に乗り込んで出発しました。

 船はあっという間に江ノ島海岸へ到着し、亀型の上陸用舟艇に乗って海岸へ到着しました。

 亀太郎が砂浜へ上がって後ろを振り向くと乗ってきた海底巡航艇も亀型の上陸用舟艇も見あたりませんでした。

 亀太郎は、砂浜を歩き自分が住んでいたマンションへ向かいました。

 ドアの前に立ってポケットを捜しましたが鍵がありません。しかしノブを回すと扉が開きました。中へ入ってみると40年前の新聞がおいてあります。40年前の宴会の後持ち帰った折り詰めもそのまま残っています。亀太郎はそれを食べて休みました。

 まぶしい光りを受けて亀太郎は目を覚ましました。驚いたことに海帝国にいた頃の亀太郎は長い髭を生やした老人でしたが、目がさめると40年前と同じ若者に戻っているのです。

 小さな亀も水槽の中にいます。

 翌亀太郎は、朝食を済ませると、水槽の亀にも食事を与え、通勤用具一式を持って会社へ向かいました。亀太郎は何だか長い夢を見ていたような気がしましたが夢だったとは考えられません。

↑ ページトップへ