鬼島興産株式会社

  すると男は、名刺を取り出して、「私は鬼島興産の者ですが柿木鶴蔵さんの会社が倒産しまして債務を払えなくなりましたので、借金された赤岩金融には鬼島興産が肩代わりして支払いたしました。その時この証書を私どもが引き継ぎました。そこで連帯保証人のあなたに返済をお願いしなければなりません。」  顔に似合わず丁寧な言葉付きです。三四郎はジット聞いていました。

 お爺さんは尋ねました。「確か、柿木鶴蔵さんの借財は90万でしたね。それに法定利息を付けてお支払えばいいのですか。」

 すると男は言いました「この貸借契約証書をよく見て下さい。特に利息についての約定の所をよく見て下さい。この取り決めで計算すると元利合計400万円に延滞金100万円が加算されて500万円になります。これをお支払い頂かなければなりません。柿木さんが緊急の入り用でこのような契約をされたのです。もう一度良くご覧下さい。」言葉は丁寧ですが法外な要求です。

お爺さんは聞きました。「今の時代にそんな高利は禁じられているのではないですか。法定利息で交渉して頂けるのなら、友人のために支払に応じますよ。」すると、男は、もう一度証書をお爺さんに見せて、「ここにきちんと利息に関する約定が明記してありますよ。それにここに確かに柿木鶴蔵さんとあなたの契約時に自ら署名されていますし、その時押した実印が何よりの証拠です。印鑑証明も頂戴していますので約定通りにお支払い頂くしかないと思いますが、如何でしょうか」お爺さんは、「一寸待って下さい」と言って、老眼鏡をもう一度かけ直して書類を丹念に見ました。お爺さんが「そのコピーを頂けませんか」と言うと、「もう一枚は柿木鶴蔵さんが保管されていますから、このコピーを造ることは出来ません。」と言うのです。

お爺さんは、「何とかしますから、4~5日待って下さい」と言うと、「では、五日後の午後二時にお伺いします、その時までにご用意下さい。返済日が延びれば伸びるだけ利息が加算されることをお忘れなく、これから五日間の利息はサービスさせていただきます。」と言って立ち去り、3人が乗った高級車は何処かへ走り去りました。  一部始終を見聞きしていた貴一郎と三四郎は、車の行き先を確かめるために追跡しました。貴一郎は空から、三四郎は男たちが乗り込むときに滑り込んで座席の下に隠れていました。

 やがて車は“ONスカイマンション”と言う、高級なマンションの前に止まり、赤いネクタイの三人の男達は、二階の部屋に入りました。そこには『鬼島興産株式会社』という看板が付いています。その後また青いネクタイの三人組の男たちがかえってきて、その後また黄色いネクタイの三人組が入っていきました。 男たちはみんな黒いスーツを着ています。