帰ってみれば元の家
亀太郎は、ゴンザ亀に乗って、懐かしい江ノ島の浜辺に帰ってきました。亀のゴンザが海の中へ消えた後、亀太郎は海岸を歩いて、以前住んでいたアパートを探しました。
以前と全く変りません。ドアには鍵もかかっていません。
水槽の中には亀はおりません。
いろいろな事で、すっかり疲れた亀太郎は、兎も角、部屋に入って、海帝陛下から貰った大事な箱をテーブルの上において、布団を敷いて休みました。
久しぶりに懐かしい煎餅布団で、ぐっすり眠って、朝になりました。
枕の上で、がさがさという物音がするので目覚めてみると、60年前道ばたで拾った筈の亀が、朝日に向かって元気に動いていました。
亀太郎は何が何だか解らなくなって、テーブルの上に置いたはずの海帝陛下から貰った小箱を捜しましたが何もありません。
カレンダーを見ると、昨日寝てから朝が来たことがわかりました。
海底帝国での60年は夢だったのでしょうか。
今晩の、夢で又海底帝国へ帰れるかもしれないと思いながら、這い回っている亀を見ていました。
亀太郎が経験した、海底帝国のお話は、夢の夢の又夢のお話かも知れません。
拾っ小さな亀ゴンザは、亀太郎を見上げながらごそごそ動いてます。
亀太郎は、海天宮殿で60年過ごし多くの子も孫も出来ました。海帝陛下・皇后も逝かれ、愛妻も亡くなりました。
ある日、亀太郎は海帝陛下にお願いしました。「一度、地上がどれほど変っているのか見に行かせていただけないでしょうか。」
すると、海帝陛下は亀を呼んで、亀太郎を元来たところへ送るようにと言いつけました。
「60年も前の事ですから何もないでしょうが、一度だけ見ておきたいのです。」と言葉をくわえました。
すると、海帝陛下は「それから、もし此処へ帰ってきたければ、この箱を開ければいい」と言って小さくて綺麗な箱をくれました。
海帝陛下に呼ばれて現れた、ゴンザ亀もすっかり歳をとったようで、白い髭が顔一面に生えていました。